シニア、退職日が手取り左右 1日違いで控除70万円増も
シニア、退職日が手取り左右 1日違いで控除70万円増も
中高年で退職する際は社会保険や税の制度を押さえておきたい
「65歳前後で現在の勤務先は退職予定だが、まだ元気なのでその後も職を探して働きたい」と話すのは投資信託運用会社勤務の男性会社員Aさん(64)。そんなとき注意したいのが退社時期。雇用保険の給付額が大きく変わることがあるからだ。
給付日数に目配りを
65歳未満で退職すれば、自己都合なら失業給付の基本手当が最大150日分支給される。一方、65歳以上だと高年齢求職者給付金として基本手当の最大50日分を一時金で受け取ることになる。
このため「退職一時金など他の条件に影響を与えない場合、65歳未満で退職して基本手当をもらう方が通常は給付額が大きくなりやすい」(社会保険労務士の中村薫氏)。基本手当の日額は、退職直前6カ月間の賃金(賞与は除く)の合計を180日で割った額の80%が上限だ。
もっとも60代前半に特別支給の老齢厚生年金を受給している場合は「基本手当を受けるために公共職業安定所に求職申し込みをすると、翌月から年金が停止になる点は要注意」(中村氏)だ。60代前半の年金停止期間をなるべく少なくするためには、65歳の直前での退職も一案だ。65歳以降の老齢年金は基本手当の受給が続いている時期も停止されない。
基本手当と高年齢求職者給付金は二者択一ではない。「基本手当をもらった後も、就職して6カ月以上雇用保険に加入してから退職すれば高年齢求職者給付金をもらうことができる」(社労士の漆原香奈恵氏)。その後も条件を満たせば退職のたびに受け取れる。
1年未満、切り上げて計算
中高年での退職時期を考える際に頭に入れておきたいのが、退職一時金などの非課税枠である退職所得控除の仕組みだ。受給額から退職所得控除を引き、残った金額の2分の1が課税対象になる。非課税枠は勤続20年までは1年あたり40万円、21年目からは70万円ずつ増えていく。勤続30年なら1500万円の非課税枠ができる。
退職所得控除の年数は1年未満を切り上げて計算する仕組みで、勤務が1日でも対象になる。例えば3月31日が勤続30年目なら、退職日を4月以降に少し延ばせば退職所得控除が1年分増える。中高年では勤続21年目以上になっていることも多い。年数を1年増やせば70万円増え、退職一時金の手取りを大きく増やせる。
税理士の柴原一氏は「定年退職の場合は会社の規定などで退職日を動かしづらいことも多い。しかし自分で退職時期を選べる中途退職であれば、退職所得控除の効率的な上積みも考えて退職日を判断したい」と指摘する。
資格喪失日に注意
退職時期により影響を受けるのは年金・健康保険も同様だ。「退職するなら月末ではなく1日前の方が退職月の手取りが多くなるので有利とネットに書かれていた。どういうことか」。中村氏は最近50代の会社員女性からこんな相談を受けたという。
会社員の厚生年金や健康保険は退職日の翌日に資格が喪失する。保険料は喪失日の属する月の前月までの分を払う決まりだ。例えば5月31日退職なら喪失日は6月1日となり、5月分の保険料が5月の給与から天引きされる。しかし30日退職なら喪失日は31日になるので、5月分は天引きされず手取りは多くなる。これが「1日前退社が有利」と一般に勧められやすい理由だ。
ただし「1日前退社が有利になるのは退社後すぐに配偶者などの扶養に入る場合。それ以外は不利なことも多い」(中村氏)。扶養に入らない場合、社会保険料は基本的に毎月払う。例えば5月30日に退社し別の会社で働くまでに期間があれば、5月分は自分で国民年金保険料や国民健康保険料などを自治体などに1カ月分支払う。支払先が変わるだけだ。
会社員の厚生年金・健康保険料は会社と折半だが、自分で払う場合は全額なので、会社天引きの保険料が低いことがある。会社天引きの方が高い場合も「会社の社会保険の給付は国民年金・国民健康保険より通常手厚い。特別な事情がなければ1カ月でも多く、会社の社会保険に加入することを勧める」(漆原氏)。
中高年では障害年金や遺族年金の対象となるリスクも増える。これらは過去の加入期間の3分の2以上の保険料納付という本来の要件を満たさなくても、過去1年間に保険料の未納がなければ受給できる特例がある。しかし自分で国民年金・国民健康保険料を払う場合、不注意で未払いになって条件を満たすことができず、特例の対象外となるケースもみられる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD221BM0S2A420C2000000