女王陛下のキス
これは文藝春秋2000年11月号に掲載された阿川弘之氏の文を要約したものです。
2000年7月4日、20世紀最後のアメリカ独立記念日を祝う洋上式典に参加するため、 世界各国の帆船170隻、海軍の艦艇70隻がニューヨーク港に集結した。
翌日の5日に英国の豪華客船「クイーンエリザベス号」が入港してきたのだが、 折悪しくも2ノット半の急流となっていたハドソン河の流れに押された 巨大な客船は、あれよあれよと言う間もなく、 係留中の我が海上自衛隊の自衛艦「かしま」の船首部分に接触してしまったのである。
着岸した「QE」からすぐさま、船長のメッセージを携えた機関長と 一等航海士が謝罪にやってきた。
相手の詫び言に対応した「かしま」艦長はこう答えた。
「幸い損傷も軽かったし、別段気にしておりません。 それよりも女王陛下にキスされて光栄に思っております」
これが何千人もの船乗りたちの間で大評判になり、 ニューヨークだけでなく、ロンドンにも伝わって 「タイムズ」や「イブニング・スタンダード」も記事にし 日本のネイバル・オフィサーのユーモアのセンスを評価する声が高かったそうである。
「かしま」艦長、上田勝恵一等海佐の対応の見事さは勲章ものではないでしょうか。